​​フランスにおける映画館支援についてのインタビュー:「シネマ・ランドブスキ(Cinéma Landowski)」館主マニュエル・シャペリュさんに聞く

この記事は、日本版CNCが担うべき支援の4つの柱、①「 教育支援」②「労働環境保全」③「製作支援」④「流通支援」のうち、④「流通支援」に関するものです。
映画監督有志 2023.12.25
誰でも

※こちらの記事は前号「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」集計結果報告とセットの内容となっています。併せてお読み頂ければ幸いです。

 2020年。文字通り全世界が未知のウィルスの影響下に置かれる中、日本においても例外ではなく、緊急事態宣言が政府より発布された。強い自粛要請はあらゆる業種の経済活動にブレーキをかけ、街から人の姿は消え、これまで年末年始であっても休むことのなかった映画館さえも映写機を止めた。
 そもそも経営基盤が磐石ではなく内部留保も少なかったいわゆるミニシアターにとって、休業中も発生する人件費や家賃などのランニングコストは極めて大きな負担であり、数ヶ月で閉館に至るかもしれないといった不安が彼らにはのしかかっていった。
 そういった混乱のさなかで、映画ファンのクラウドファンディングによってミニシアターへの支援を行うミニシアター・エイド基金に注目が集まり、また政府省庁に補償を求めるSave the Cinamaなどの活動によって遅ればせながら政府の補正予算の一部が映画館への支援にも当てられることになった。
 しかし、それらはあくまで急場を凌ぐためのもので、ミニシアターが元来から抱えていた経済的な脆弱性が解消されたわけではないことは明らかである。現実として、それらの支援が出た後においても日本各地でミニシアターの閉館は後を絶たない。
 その厳しい状況は、a4cがコミュニティシネマセンターと共同で今年の8月-9月に行ったミニシアターへのアンケートの集計結果を見ても明らかである。
 一方で日本に比べて全般的に文化や映画への支援が手厚いといわれるのはフランスである。だからこそ私たちa4cもまたフランスをひとつのモデルケースとして「日本版CNC」の設立を提唱しているわけだが、では具体的にはどのような支援を受けているのか、当事者にお話を伺ったのでここに報告する。

 2022年2月、まだまだコロナの影響が抜けない中、フランスはブローニュ市あるアートハウス(日本におけるミニシアターに相当する映画館)「シネマ・ランドブスキ(Cinéma Landowski)」の館主マニュエル・シャペリュさんにインタビューを行った。
 日本と同様に数ヶ月に亘る休業を余儀なくされたフランスの映画館。その休業中に、どういった支援を受けていたか。マニュエルさんからの回答を以下に報告する。

シネマ・ランドブスキ外観 

シネマ・ランドブスキ外観 

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映画館「シネマ・ランドブスキ」マニュエル・シャペリュ館長インタビュー

Q1.コロナ禍においてどのような支援がありましたか?

もっとも大きかった支援は、ブローニュ市からコロナ対策として出されたもので、約計3万ユーロで、これは緊急支援です。この金額は自治体によって異なってきます。また、それとは別に映画館の全ての従業員に政府から失業手当が出ました。ASSEDICというフランス国民全てが入れる失業手当の制度で、給料相当の全額分が支給されました。

Q2.コロナ以前にはどのような支援を受けていましたか?

普段から映画館の受け取ることのできる助成金は、大きく支給元に分けて「自治体」「CNC」「ヨーロッパシネマ(EUROPA CINEMA)」の3つがあります。
まず「自治体」について。シネマ・ランドブスキの場合はブローニュ市にあたります。これは、コロナ禍の緊急支援とはまた別で、コロナに関わらずブローニュ市からは映画館への支援が存在していました。
次に「CNC」からの助成金について。これはフランスのアール・エ・エッセイ映画館協会(AFCAE)を経由して支払われることになります。支給の条件として、以下の3つのラベル(認証のようなもの)それぞれへの適合度によって金額が変わってきます。
3つのラベルの内容は、以下になります。

  ① ジュニア向けの映画のプログラミング

  ② 実験的・クリエイティブな映画、各国の映画のプログラミング
  ③ 文化遺産等のクラシックな映画のプログラミング

これらのラベルに相当する作品を年間、どの程度プログラミングしているかが審査をされ、助成額が決定します。AFCAEからのOKが出たらCNCがお金を出します。AFCAEは審査機関に相当します。
その結果、シネマ・ランドブスキは約年間1万5000ユーロ受け取っています。
また最近は上記の3つの他に「難易度の高いプログラミング」に対する助成金もあり、当館は3000ユーロをAFCAEから受け取っています。「難易度の高いプログラミング」は割と新しく、3、4年前にできました。「実験的・クリエイティブな映画、各国の映画のプログラミング」に近い内容です
もう一つは、「ヨーロッパ・シネマ(EUROPA CINEMA)」からの助成金で、主にヨーロッパ映画を上映する映画館の組織、ネットワークです。1年の間にある程度のヨーロッパで制作された映画を上映することで支給される助成金。シネマ・ランドブスキでは35~40%ぐらいの上映作品が該当します。
これらの助成金や様々な補助金を合計し、年間約10万ユーロの助成金を受け取っています。

Q3. 受け取った助成金の使い方の用途は決まっているのですか?  例えば作品の上映に関わる買付費や宣伝費など。

「難易度の高いプログラム」のお金はそういったことに使わなくてはならないわけではなく、使い方は特に決まっていません。また、AFCAEの推薦する映画については、その宣伝はAFCAEが行うので、劇場の予算では行いません。

Q4. 例えばシネマ・ランドブスキで上映された私の映画「本気のしるし」は、ラベルで言えば②の「実験的・クリエイティブな映画、各国の映画のプログラミング」に相当するのでしょうか?

深田監督の作品がそこに該当するかどうかはわかりません。映画館ではプログラム内容を毎年AFCAEに送って、それによって判断されます。

Q5. 助成金の支給はどのタイミングで行われますか?

支援金は基本的に後からになります。市からの助成金については3ヶ月おきに支払われます。

Q6. 後から受け取るとなると、支給額が想定と違ったりして困ることはありませんか?

そういうことはありません。後から確実に支給されることはわかっているからです。例えば当館では「実験的・クリエイティブな映画、各国の映画のプログラミング」に相当する映画を1年に170本ぐらいプログラミングしていて、これは他の映画館の平均よりずっと上なので、十分な額が支給されることは分かっています。

Q7. 例えばパテのような大型のシネマコンプレックスへの助成金は少ないのでしょうか?

パテなどの大きなシネコンは原則的には助成金を受け取っていません。
ただし、TSAというものがフランスにはあり、直訳すると追加直接税です。チケット料金の10.72%がCNCに渡ってそれが財源となり、例えばある映画館が工事をしたいとなったら、そこからそのための助成金がもらえます。それについては、アートハウスや大手のシネコンなどの区分なく、すべての映画館が対象となります。例えば、2011年と2012年の間にフランスの映画館は全てデジタルに移行しましたが、そのデジタル化のための費用はチケット税から支出されました。

Q8. 日本の映画業界では今、様々な業態でのハラスメントが大きく問題化している。その中では、映画館でのハラスメントや労働問題も含まれています。ご存知の範囲でお教え頂ければと思いますが、フランスの映画館ではそういったことは問題になっていますか?

私が知っている範囲ではそういう話は聞いたことがありません。

Q9. 映画館に労働組合はありますか?

はい。あります。私の映画館にもあります。
だからハラスメントの問題は起きにくいですし、最低賃金以下で働かせることはできません。

Q10. 日本だと人口の少ない地方の映画館はどんどんと閉館しています。フランスだと地方に行くと公共の映画館が多いという認識なのですが、それは正しいですか?

はい。その認識は正しいです。地方の映画館では公共企業体や直接的な公共システムがあり、映画館の従業員には街から給料を出す、などのシステムが普及しています。

取材日:2022.2.9
聞き手:深田晃司 通訳:都・スロコンブ
翻訳・協力:澤田正道、アントワーヌ・ジューブ
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 以上となる。もしここで語られている助成制度を日本の映画業界が構築できていれば、閉館せずにすんだミニシアターは多かったはずだ。
 例えば、Q2で語られたフランスアール・エ・エッセイ映画館協会(AFCAE)を経由して支払われる「CNC」からの助成金について。商業性とは異なる観点から映画の上映を支援するこれらのラベル「ジュニア向けの映画のプログラミング」「実験的・クリエイティブな映画、各国の映画のプログラミング」「文化遺産等のクラシックな映画のプログラミング」に相当する作品がどれだけ上映されているかによって助成金金額が決定されるとあるが、日本のミニシアターのプラグラムならほとんどの館ですでに上記の条件を大なり小なり満たしているはずだ。
 また、ミニシアターへのアンケートの集計結果においては81.2%のミニシアターが「デジタル映写機の買い替えの経済的な負担は大きい」と答え、その中には今年1年間で閉館を検討する可能性があると回答をした9館すべてが含まれていた。一方でマニュエルさんによるとフランスにおける映画館のデジタル化移行のための費用はアートハウス、シネコン問わず助成金でまかなわれていると語った点も特筆したい。
 印象的であったのは、多様な映画鑑賞の機会をフランス市民に提供する場としての映画館を維持し、そこで働く人の雇用や労働環境を守るためのシステムやセーフティネットは、1枚ではないということだ。CNCはその一部に過ぎず、地方自治体、失業保険、労働組合など複数のレイヤーによって文化芸術の場は守られている。

 フランスと日本、それぞれの社会が内包する文化的な土壌は異なる以上、これらの制度をそのまま日本に移植することはできないだろう。しかし学ぶべき点はたくさんある。改革には長い時間を要するからこそ今、問題意識を持って議論を始めていかないといけない。劇場関係者だけでなく、配給、製作、アニメ、実写問わず、映画館を必要とする映画人自身の変化の意思が問われている。

action4cinema 日本版CNC設立を求める会(文責:深田晃司)

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