【action4cinema 韓国・釜山訪問レポート】2022

action4cinema 韓国・釜山訪問レポート2022
映画監督有志 2022.12.10
誰でも

 私たちation4cinema は、2022年10月初旬、釜山国際映画祭開催の中、日本芸能従事者協会および日本映画監督協会とともに韓国を訪れ、映画関係の各団体や関係者とお会いし、さまざまな意見交換・懇談を行ってきました。ここにその概要をレポートいたします。

1)映画環境の改善を考える日韓映画団体懇談会  10月8日 14:00〜18:00

参加者 (敬称略)

韓国

チョ·ヨンガク/映画プロデューサー、元韓国映画振興委員会(KOFIC)副委員長
キム・ジンユ/韓国独立映画協会(KIFV) 映画祭担当
コ·ヨンジェ /韓国独立映画協会(KIFV)代表、映画監督
ムン·シヒョン/韓国映画監督組合(DGK)副代表、映画監督
イ·ユンジョン/韓国映画監督組合(DGK)副代表、映画監督、性暴力対策委員会 設立メンバー 
チャン・ゴンジェ監督
パク·ヒョンジン/韓国映画監督組合(DGK)副代表、映画監督、性暴力対策委員会メンバー
オ·ギファン(司会) /韓国映画監督組合(DGK)理事、映画監督


日本

本木克英監督・理事長、ジャン・ユンカーマン監督 (日本映画監督協会)
是枝裕和、西川美和、深田晃司、舩橋淳 (action4cinema)
森崎めぐみ(俳優)、桔川純子(研究員) (日本芸能従事者協会)

総合司会・進行
イ·ウォンジェ/文化連帯常任執行委員長、韓国文化芸術委員会委員


―――――――――――――

●a4cメンバーも参加した日本芸能従事者協会の研究会でオンラインでの日韓交流が始まり、いつかリアルで懇談をしようと温めてきた両国の思いが、釜山映画祭をきっかけに実現したこの韓日共同イベント。

制作現場の労働環境や、持続可能な映画界のシステムづくりについて意見を交換しました。一般には非公開で、最後にメディアへの記者会見のみ公開しました。

司会を務めたDGKオ・ギファン監督が「私たちは同じ問題を共有する友だちになれると思う」と述べ、密度の濃い、意味のある会談となりました。

●韓国側からは、2016年以降、韓国映画界全体で進められてきたハラスメント防止対策に触れつつ、DGK性暴力追放委員会が作成した「中・支・申(中止・支持・申告、Stop-Support-Report、本レポート最後に掲載)」と呼ばれる、セクシャルハラスメント防止への行動綱領(ガイドライン)が共有され、現状の状況と課題が説明されました。

●日本側からは、韓国の監督からリクエストされた「日本の労働環境の実態」について、日本芸能従事者協会の労災と安全衛生のアンケート調査を提示し、要請に応じて政府が労災保険を適用したことを受けて、全国芸能従事者労災保険センターが保険加入窓口を担い、安全研修をしている状況を伝え、日本映画監督協会から国際的に機運が高まっている監督の著作権を求める法律改定運動について、またaction4cinemaが求める日本版CNC設立の必要性、映画界を下支えするような助成制度=共助のシステムを作ることの意義をお話しました。

そして、互いに共通する問題について熱のこもった意見交換が行われました。

●感想としては、映画の労働環境について日本は韓国よりもだいぶ周回遅れという印象がありましたが、実際話を聞いてみると、韓国は韓国で様々な問題がなお継続しており、どこかの時点で全ての問題が解決するということことは決してなく、『闘いはシフトし続ける』。だから、現場を知る映画人が関わり続けることが大事である、という姿勢に心打たれました。私たちの目指す日本版CNCを検討する上でもおおいに参考にしたいと感じました。

●今回は、韓日映画団体の最初の顔合わせということで、釜山映画祭のオフィシャルイベントとしてではなくインフォーマルなかたちでの開催となりましたが、次回は、東京で、その次は再び韓国で、と継続的に韓日映画人の対話を続けて行きたいと願っています。

2)韓国映画振興委員会(KOFIC)訪問  10月7日 16:00〜

KOFICとエントランス

KOFICとエントランス

 日時は前後しますが、1)の懇談会の前日に、韓国映画振興委員会(KOFIC)を訪問しました。

●フランスのCNCと並び、映画専門の公的な統括機関であるKOFIC。

日本版CNCの設立を目指したいと考える私たちにとり、学ぶべきことは多いはずと面会の時間をいただきました。
あらかじめ質問リストを提出し、その中から特に重要な項目について、KOFIC の現場責任者や委員から直接お答えいただきました。

●まず、日本の映画界で共助のセイフティネットを作る上で、ずっと関心を持ち続けてきた、韓国の映画発展基金(劇場入場料金の3.3%)を準税金として国庫に入れたのち、KOFIC 予算に充てられる制度)が成立した経緯について。このような「チケット税」が、なぜ成立し得たのか、聞いたところ:

★一番大きかったのは、1960年代から劇場の入場料から一部を徴収する文化振興基金のシステムがあったこと。★さらには、政府の助成金を入れて、制度導入に際し、観客の負担の増加につながるようなチケットの値上げがないようにしたとのことでした。

●次に、フランスCNCにある自動助成制度(チケット税など業界内で循環する基金の一部を、製作会社に還元する制度)が、韓国KOFICではどうなっているのか?という問いに対し、韓国では、脚本執筆など企画開発など、フランスに比べ限定的なかたちで自動助成制度がある、とのことだった。韓国映画、韓国エンターテインメントの脚本の練り込まれ方にはこの脚本開発への自動助成が影響していることは想像に難くないと思えました。

●日本の状況についてもお話ししました。日本では、昨年、主に下請法に関するフリーランスガイドラインが出され、そのあと文化庁で契約に関する検討会議が開設され、日本芸能従事者協会の森崎代表理事が実演家委員として参加し、今年の7月に「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」が出されたばかりの状況をご説明しました。社会保障に関しても、はじめて得ることができたセーフティーネットが芸能従事者に適用された特別加入労災保険制度で、現状、韓国の方がはるかに進んでいて、すでに芸術家の雇用保険を始めていることには、尊敬しかないと申し上げました。

3)映画と市民との関わり〜COMMUNITY BIFF  10月7日 日中

●1)、2)、3)の大きなミーティングの合間には、COMMUNITY BIFFという市民主導の映画上映活動の一部を見学しました。COMMUNITY BIFFとは、釜山市が予算を負担し、主催者、観客がともに主体となってつくりあげていくプログラムで、2018年から始まりました。観客がプログラマーになり、多くの人と一緒に見たい映画を選定し、クラウドチケット方式で上映が確定される観客参加型プログラム「リクエストシネマ」、記憶に残る跡を残した監督や俳優を招待し、リアルタイムのオンラインでコミュニケーションをはかる「マスタートーク」など、ユニークな映画鑑賞の実験的な試みをしています。この日は、市民が協同組合を形成して運営しているコミュニティシネマ「コーナーシアター」を訪問し、観客が主体となる試みについて説明していただきました。「市民が映画を楽しむ権利」というのを、あらゆる方向で充実させている文化都市釜山はすごいと感じました。

●韓国には、「文化福祉」という考えが根底にあり、QOL(生活の質)をあげるためには、国民は誰しも平等に文化芸術を味わう権利を有しており、そのためのインフラが充実されています。生活困窮者の人々には文化ヌリパス(ヌリは韓国語で「享受する」の意味)が発行され、無料で映画や演劇、音楽を楽しむことができる。「最低限の文化的な生活を営む権利」が憲法で保障されている我が国でも、見習うべき制度だと感じました。

4)映画と市民との関わり〜COMMUNITY BIFF その2     10月8日 日中

文化の拠点となっているスヨン区の書店

文化の拠点となっているスヨン区の書店

カフェDeep Sleep Coffeeで開催されていた市民短編映画祭

カフェDeep Sleep Coffeeで開催されていた市民短編映画祭

●この日は、「文化都市」に指定されている二つの地域:ヨンド区(旧市街)、スヨン区のうち、スヨン区を訪問しました。「文化都市」政策とは、文化を通じて持続可能な地域発展と地域住民の文化的生活を提供するという、文化体育観光部(部は日本の省に該当)が進める事業です。韓国でもコロナ禍や経営難により閉館するアートハウスのミニシアターが少なくないのですが、一方で、恒常的な映画館ではなく、イベント的に上映会を開く活動も盛んになっています。2018年以来スヨン区を中心に活動しているCINE FOLK という団体もその一つ。東京でいうと神田のような書店街のあるスヨン区で、書店を貸し切って上映会などを開いているとのこと。官民をつなげる中間支援組織も兼ねる文化団体(「考える海」、代表パク・ジンミョンさん)が、釜山市や映画祭と市民団体をつなげる役割を担っているそうです。

●次に紹介されたのが、Deep Sleep Coffeeというカフェで開催されていた市民短編映画祭。文化都市釜山のテストプログラムだそうで、地域のメディアセンターが機材や編集室を貸し出して、市民だけで短編映画を撮り、その発表会が開かれていました。すべてやりたい人が参加して、意見を出し合い、イベントを開催したそうです。私たちが訪問した上映会は、地域に住むアーティストが映画制作のメンター(指導者)役をし、教師を引退した女性が上映会を企画したそうです。これら短編は、釜山国際映画祭の独立映画部門へ応募されたそうです。

5)まとめ

釜山国際映画祭会場 "Welco, to the Hub of Asia Cinema"

釜山国際映画祭会場 "Welco, to the Hub of Asia Cinema"

●今回は、KOFIC, DGK, KIFV など、各映画団体・組織と交流し、意見交換をする中で、日本映画界が直面する様々な問題を異なる角度から観察し、考え直す機会となりました。

 また、映画祭へ映画をただ見にゆくだけでなく、市民がもう一度見たいと思う作品の再上映会を企画したり、自分たちでチームを組織して地元で短編を制作したりと、身近な日常に映画を溶け込ませようとしている取り組みを知りました。その根底にある「市民一人一人が映画を楽しむ権利」への理解・意志は、本当に素晴らしいです。

 現役の映画人が国家の映画統括機関の中に委員として関わり、予算審議や業界の自治に関わったり、映画祭の支援のもと市民主導の映画プログラムが拡大していたり、様々なレベルで韓国の映画への熱量に圧倒され、感心した訪問となりました。                          

構成・執筆:舩橋淳(action4cinema)
執筆協力:森崎めぐみ、桔川純子(日本芸能従事者協会)

KOFIC パク・キヨン委員長との日韓交流会

KOFIC パク・キヨン委員長との日韓交流会

参照:DGK韓国映画監督組合が作成した「中・支・申(中止・支持・申告、Stop-Support-Report)行動綱領」セクシャル・ハラスメントに関するガイドライン

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